高く青い空、道端の腐った死骸、ねばついた梅酒と炭酸水、そしてねえさん。
大学三年の夏休み。おれは水素水詐欺にあった祖母の様子を見に、静岡へと向かう。我儘なねえさんも一緒に。ねえさんはなぜだか、ずっと、おれについてくるのだ。
久しぶりに逢う祖母の目はうっとりとしていて、同じ言葉を繰り返す。爺さんが死んだのは、めんとりさまのせいだ。居るんだ、めんとりさまは――そして、祖母は失踪した。
祖母の行方を追うため「めんとりさま」の正体を調べる、おれとねえさん。しかしそれは家族の闇と絶望に触れる、禁忌の探索だった――!
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大学三年の夏休み。おれは水素水詐欺にあった祖母の様子を見に、静岡へと向かう。我儘なねえさんも一緒に。ねえさんはなぜだか、ずっと、おれについてくるのだ。
久しぶりに逢う祖母の目はうっとりとしていて、同じ言葉を繰り返す。爺さんが死んだのは、めんとりさまのせいだ。居るんだ、めんとりさまは――そして、祖母は失踪した。
祖母の行方を追うため「めんとりさま」の正体を調べる、おれとねえさん。しかしそれは家族の闇と絶望に触れる、禁忌の探索だった――!
おれの存在はコーヒーに溶けゆく一粒の砂糖、汀に洗われる貝殻の薄蒼い欠片、梅のジュースに靄を落とす氷、その全てだった。 //とろりとした夜火が、花火の芯を舐めていく。 ぱぱ、ぱ、ぱち、と。 やわらかな光で編まれた金色の綿くずが暗闇に泡立ち始め、橙色の夏のかたまりは中芯でその存在感を膨らませてゆく。// 腹が減ったのでドーナツを食べようと口を開き、その穴の向こうに喪失をにっかり笑って吹き飛ばすように、ひょこりとねえさんが見えるようになったとき――おれがどんなに嬉しかったか。