──世界有数の貿易会社を所有する戸隠(とがくし)家。
その長・ケジメは、一人息子であるススムの進路問題で頭を悩ませていた。
「僕は大学に行くよ。……父さんの手を離れて、一人で生きてみたいんだ」
そう言ったススムの自立心は年相応の青年として歓迎すべきものであったが、
いずれ息子に会社を継がせようと思い極めていたケジメにとっては、
ただ不愉快なだけであった。
「大学でやるような“ならいごと”が何の役に立つ。お前は私の会社に入ればいい。
……英才教育を施す準備も整っているんだぞ、五年と経たず重役にしてやる」
そう言っても、ススムは頑として首を縦には振らなかった。
横暴で強引な父に対して、我慢を重ねてきた結果の「NO」なのである。
決意が揺らごう筈は、なかった。
そこで、ケジメは自分専属のメイドである周防皐月(すおう・さつき)と共に一計を案じ、
自立心の拠り所となっているススムの大学進学そのものを妨害しようとする。
「金は惜しまぬ、何としてもススムの大学受験を失敗させろ。
本邸に居るススム付きのメイドも懐柔して、好きなように使え」
ケジメは、仕事に追われて身動きのとれない自分の代わりに、
周防皐月を本邸へと向かわせる。
* * *
たかが受験、たかが試験……そう言える余裕はどこにもない。
志望校入試のその日まで、残り十週。
戸隠ススムの人生に明暗を分ける「お勉強」が始まった。
more...
その長・ケジメは、一人息子であるススムの進路問題で頭を悩ませていた。
「僕は大学に行くよ。……父さんの手を離れて、一人で生きてみたいんだ」
そう言ったススムの自立心は年相応の青年として歓迎すべきものであったが、
いずれ息子に会社を継がせようと思い極めていたケジメにとっては、
ただ不愉快なだけであった。
「大学でやるような“ならいごと”が何の役に立つ。お前は私の会社に入ればいい。
……英才教育を施す準備も整っているんだぞ、五年と経たず重役にしてやる」
そう言っても、ススムは頑として首を縦には振らなかった。
横暴で強引な父に対して、我慢を重ねてきた結果の「NO」なのである。
決意が揺らごう筈は、なかった。
そこで、ケジメは自分専属のメイドである周防皐月(すおう・さつき)と共に一計を案じ、
自立心の拠り所となっているススムの大学進学そのものを妨害しようとする。
「金は惜しまぬ、何としてもススムの大学受験を失敗させろ。
本邸に居るススム付きのメイドも懐柔して、好きなように使え」
ケジメは、仕事に追われて身動きのとれない自分の代わりに、
周防皐月を本邸へと向かわせる。
* * *
たかが受験、たかが試験……そう言える余裕はどこにもない。
志望校入試のその日まで、残り十週。
戸隠ススムの人生に明暗を分ける「お勉強」が始まった。
上学模拟器