2024-8-26 13:47 /
黒神話:悟空 - レビュー

アクションRPGとしての単調さは否定できないが、作りこまれた無数のボス敵たちが待つ、どこまでも美しい世界に一見の価値あり



『黒神話:悟空』は、中国のゲームメーカー「Game Science」によるアクションRPGである。本レビューは、事前提供を受けたPC版のver.1.0.4.14545に基づいた内容となる。

かの有名な中国古典小説『西遊記』を題材とする本作であるが、そのゲーム性を一言で表すとすれば、「弾き」のない『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』、あるいは武器が1種類しかない「DARK SOULS」、やれることの少ない『仁王2』といったネガティブな表現となってしまうだろうか。

戦闘と探索の両面で根本的な何かが抜け落ちているような印象があり、アクションRPGとしては味気なさを覚えてしまう。しかし、ボス戦についてはほかに類を見ないほどに数が多いにもかかわらず、そのいずれもが丁寧に作り込まれている。超一級品のグラフィックと独特なデザインセンスから思わず見惚れてしまう風景が満載のマップ、なぜか逐一挿入される超クオリティな2Dアニメーションなど、贅沢極まりないつくりである。見逃せない問題は多くあれども中国にしかつくれない大作であることは間違いない。

本作のプレイを始めて真っ先に目を奪われるのがそのグラフィックであろう。Unreal Engine 5 による緻密極まりない描写と、中国らしさが感じられる独特なセンスによってあらゆる瞬間が思わず見惚れるほど絵になるという、素晴らしいグラフィックである。ただ見た目が美しいだけでなく、孫悟空が封印される五行山、芭蕉扇がないと通行不能な火焔山など、有名な『西遊記』の世界が最新のグラフィックで描写されており、原典に詳しいプレイヤーであればそれだけで高揚してしまうことだろう。

メーカーによるレビューレギュレーションの都合上、森と砂漠しか画像を掲載できないのが残念だが、以下のギャラリーでその一部を紹介する。本作のロケーションは牢獄、雪山、火山などバラエティ豊かであるだけでなく、心奪われる風景やその場に見合った敵配置などから、魅力あふれるレベルデザインとなっている。

戦闘のバリエーション不足は深刻ながら、好機を見極めて一気呵成に攻め立てる感覚は爽快

実際のゲームの流れについて言及すると、少しの油断が死につながる高い難易度、チェックポイントで休息するごとに復活するザコ敵、厳しい回数制限のある体力回復手段など、さまざまな困難を乗り越えてチェックポイントを開放していき、最奥に待ち受ける大ボスを倒すことでストーリーが進行するという、すっかり見慣れたものとなっている。

以下のように大きすぎる相違点もあるが、やはり基本的なプレイ感覚は「DARK SOULS」などに近い。

    死亡時のペナルティがない
    マルチプレイ要素が存在しない
    キャラ強化要素の不足から探索があまりにも味気ない(後述)
    ジャンプアクションの存在から移動にいくらか自由度がある


見えない壁に阻まれることが多いマップデザインや、基本的に出会うキャラはすべて敵であり、たまにサブイベントを備えた会話可能なNPCがいるという点も「DARK SOULS」を思わせる。

戦闘システムについても似通った部分が多く、スタミナゲージに注意を払いながら攻撃を繰り返し、敵の攻撃に合わせてローリングで回避するというなじみ深い戦闘である。しかしながら、武器の種類は「如意棒」のみであり、最初から存在する一連の攻撃モーションのみで最後まで戦い抜くことになる。そのうえ、「SEKIRO」の弾きと体幹、あるいは「DARK SOULS」のパリィと致命の一撃のような戦闘の根幹を支えるシステムは存在していない。ガードアクションもなく、その代わりにジャスト回避が重要視されているなどのちょっとした工夫はあるが、基本的にはひたすらに棒で叩くのみという割り切りすぎた仕様である。

https://assets.ign.com/videos/zencoder/2024/8/22/1280/ign_jp-76176-1724321862.mp4
1種類しかないモーションセットであるが、動画のとおりトリッキーで扱いづらく、かなりの慣れが必要とされる。


自キャラの強化や状態異常の治療に用いる消費アイテムもあるが、敵を直接攻撃するタイプのものは存在せず、バフの効果もそこまで強力なものではなく、作成コストも重めであるため、今ひとつ影が薄い。

シンプルすぎる戦闘にいくらか彩りを添えてくれそうで、そうとも言い切れない要素が「法術」である。本作には敵を一定時間硬直させる「定身術」、自らの身体を石に変えて敵の攻撃を弾く「金剛術」、複数体の分身を生み出して敵を袋叩きにする「分身術」などといった術がいくつか用意されている。


大型のボス敵だろうと敵が空中にいようと、ほとんどすべての敵を5秒ほど拘束できる定身術など、いずれの術も強力である。

しかし、発動に必要となるいわゆるMPにあたるゲージ「法力」の消費量は多めに設定されており、しかもこの法力を拠点以外の場所で自発的に回復する手段はほぼ存在しない。さらには、だいたいどの術も長いクールダウンタイムが設定されていることから、発動のタイミングについてはかなり吟味する必要がある。また、用意された法術は5種類のみで、火の玉を放つなどといった直接敵を攻撃する法術は存在していないため、術のみで敵を倒すことはできず、やはり戦いの主役は如意棒である。


伸びることを活かした中距離攻撃が可能であるため、ある意味では如意棒による攻撃自体が術の一種であると言えるかもしれない。

そうした法力を消費するタイプの術とは別枠として「借身術」という術がある。これは要するに『仁王2』の「妖怪技」そのものであり、特定の敵を倒すことで得られる「魂魄」を装備することで一時的に妖魔の姿を借りて、特殊な攻撃を繰り出すことができるというもの。この術を扱うには「真気」という攻撃をヒットさせるごとに溜まるゲージが必要となるのだが、その必要量は多めであり、強力な魂魄の場合はおおむね1回の戦闘で一度か二度までしか発動できない。また、一度に装備可能な魂魄はひとつのみであり、複数の魂魄を状況に応じて使い分けるといった扱い方ができないなど制限も多い。ただ、種類としては数えきれないほど用意されていることから、選択肢の少ない戦闘に彩りを与える要素であることは間違いない。

https://assets.ign.com/videos/zencoder/2024/8/22/960/ign_jp-76179-1724322575.mp4
金剛術、定身術、借身術を活用した戦闘の様子。借身術については姿を変えて特定の攻撃をしたあとはすぐ元に戻るという点も含めて妖怪技そっくりである。

もうひとつ妖魔の力を借りる術として「変化術」がある。発動することで攻撃パターンが専用のものへと切り替わる点やHPゲージが独立している点など、『仁王2』の「妖怪化」そのものだと言える。非常に強力ではあるのだが、こちらも長いクールダウンタイムが設定されており、ここぞという場面でのみ用いることとなる。やはりどこまでいっても戦闘の主役は如意棒である。

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変化術中は、攻撃するたびに変化時間が減少する点なども妖怪化によく似ている。

ここまで書いた限りでは弾きのない「SEKIRO」、あるいはビルドに幅のない「DARK SOULS」、やれることの少ない『仁王2』というべき戦闘であり、ネガティブな印象を受けてしまうだろう。では、本作の戦闘の独自性はどこにあるのかと言うと「棍勢」ゲージ管理と「重棍」攻撃の重要性が挙げられる。

「棍勢」とは主に通常攻撃を敵にヒットさせることで溜まるゲージのことで、これを消費すると「重棍」という大技を放つことができる。重棍は高威力なだけではなく、大型のボス敵まで含めた大半の敵をよろめかせる効果があるため、棍勢を維持しつつ敵の攻撃を見極めて適切に重棍を当てていけば、敵の攻撃をキャンセルしてこちらの攻撃機会を飛躍的に増やすことが可能となる。


右下の白く光る球が棍勢ゲージ。やけに見づらい位置にあるのが気になるが、常にこのゲージに注意しながら戦うことになる。

全般的に敵の隙は少なめに設定されていることから、重棍をヒットさせて隙を生み出すことが本作の戦闘でもっとも重要な要素となる。これを起点とした爆発力はかなりのもので、重棍を当てて敵の隙を生み出したのちに、敵を硬直させる定身術を用いてさらに隙を延長、そのタイミングで分身術を用いて手数を増やすといったことができる。さらに敵をよろめかせる効果をもつ借身術や変化術までも総動員すれば、一度の攻撃機会をどこまでも延長し、敵のHPをゴッソリと持っていくことができる。

https://assets.ign.com/videos/zencoder/2024/8/22/1280/ign_jp-76177-1724322183.mp4
各術の発動に必要なゲージもあっという間になくなってしまうため、あまり欲張ると即死する危険性があるなかで一度になるべく多くのダメージを与えないと以降は手詰まりという紙一重な戦いが常となる。

つまり、本作の戦闘は「隙をつくというよりも、隙を作り出す」、「少ないチャンスを最大限に活かす」といったコンセプトだと言える。思えば、各術の法力消費が激しいうえにクールダウンタイムが長いなど、自由に扱えないのもこのコンセプトゆえの調整なのだろう。そう考えるとよく練られているようにも思えるが、戦闘中の大半の時間は棒でペチペチと殴りつけているだけになりがちというのは、やはり難点である。

また、根本的な問題として各アクションの硬直時間が長めでレスポンスも悪く、ちょっとした段差で勝手に飛び跳ねてしまうなど、操作感があまりよろしくない。戦闘時のカメラワークにも難があったりと、基礎からして怪しい部分があり、決して手放しで褒められる出来栄えではない。しかし、好機を見極めて一気呵成に攻め立てる感覚は爽快で、機を逸した直後の絶望感などは独特なものでもあり、駄作と切り捨てるには惜しい戦闘である。

貧弱なキャラ強化要素と退屈な探索は本作の明確な欠点

何とも評価に困る戦闘要素であるが、同ジャンルの根幹を成すべきもうひとつの要素「キャラ強化」については明確な欠点となってしまっている。まず本作には主な成長要素として「スキルツリー」システムが導入されているのだが、その大半が生命力や攻撃力などの各パラメータを多少強化したり、特定の攻撃や術をいくらか強化するといった内容に留まっている。


「クールダウンタイムの軽減」や「術の効果時間の延長」など有用ではあるのだが、新たな術を習得するようなスキルはなく、各術の使用感が一変するようなスキルもない。

スキルツリーによってもたらされる唯一の大きな変化と言えそうで、そうとも言い切れないのが、「スタイル」の選択である。本作には「劈」、「立」、「刺」という3つの攻撃スタイルが存在しているのだが、スタイルという割に通常攻撃や回避などの基本モーションについてはまったく変化がなく、重棍のモーションが変化するのみとなっている。その重棍の性能についてはいくらかの差別化は図られているが、スタイルを選んだところで棍勢を溜め、折を見て重棍を叩き込むという流れに変わりはない。戦闘の幅の少なさを補えるほどのスキルツリーではなく、この点については残念としか言いようがない。


スキルについては各チェックポイントにて、いつでも無償で無制限に振り直しが可能という点については評価したい。

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訂正(24/08/26)

初出掲載時の内容につきまして、防具の強化、装具(アクセサリ)の装備上限に誤りがあったため、内容を訂正いたしました。

強化要素のもうひとつの残念な点として、武器の仕様が挙げられる。基本的に本作の武器モーション自体はひとつのみながら、装備品はいくつか種類があり、それぞれ攻撃力と会心率などの基礎パラメータが異なっているだけでなく、「毒の状態異常時に攻撃力増加」、「通常攻撃の4段目を強化する」など特殊な効果を備えている場合がある。

しかしながら、本作には武器の単純強化という概念が存在しないらしい。また、本作における武器や防具の取得は特定のボス敵を倒して設計図を取得し、マップの探索などで取得した素材を用いて作成するという形式であり、「仁王」シリーズのようなトレハン要素も存在しない。「武器鍛造」という、性能の異なる別の武器へと鍛造する機能は存在するが、それを実行すると攻撃力が変化すると同時に特殊効果まで変化してしまう。そのため、お気に入りの効果を備えた武器で最後まで戦うといったことはできない仕様となっている。


残念ながら、いわゆる「戦技」などの武器に依存する大技は用意されていない。

一方の防具については性能の単純強化が可能となっている。防具には多くの種類があり、防御力値や各種の耐性値など基礎パラメータが異なるだけでなく、同種を複数装備することで「水辺での戦闘時に体力回復速度向上」、「特定の術を使用した際に一定時間攻撃力上昇」といった「揃え効果」が発動するなど、それぞれ差別化が図られている。防具については特定のサブイベントをこなすことで、基礎パラメータの強化を行うことができる。鍛え上げれば最後まで扱えるほどの防御力となるため、お気に入りの防具に資材を注ぎ込んでみるのもよいだろう。

ただし、ストーリー後半の流れから名実ともに最強クラスの武器と防具が手に入ってしまうこと、本当に有用な効果を備えた武具は限られていること、防具の強化に必要な対価が重く限りがあることなど複数の事情から、最終的な装備はある程度似通った形になってしまうと思われる。武具を工夫して自分なりのビルドを完成させるといった楽しみ方はそれほど重要視されていないようだ。


武器や防具は見た目に反映される。

武器や防具とは別枠で特殊な効果を付与できるアクセサリも存在しており、これが探索の主な報酬となるのだが、全般的に効果量は控え目で、同時に装備可能な数は2つまでということもあり、そこまで大きな違いを感じられるものではなかった。

質、量ともにほかに類を見ないほどに充実したボス戦が最大の魅力

キャラの強化を担うスキルツリーや武器がそういった状況であることから、必然的に探索による見返りについては薄味なものとなってしまっている。

その結果として、ある程度プレイした時点で「いくら探索しても、スキルツリーが大きく拡張されることも、まったく新しい種類の武器が増えることもないだろう」という考えに至ってしまった。それに加えて、本作はプレイを進めるにつれてマップが広くなっていくという構成である。より探索に手間がかかるようになる一方で、見返りが物足りないといった状況が続き、中盤以降は探索のモチベーションを維持できず、駆け足気味にプレイしてしまったが、それでもクリアまでに35時間程度というかなりのボリューム感である。

こなせていないサブイベントや出会えていないボス敵も多数存在しており、諸々の情報から大雑把に推測すると全体の3分の2ほどを遊んだ計算になりそうだ。また、エンディングを迎えたあとには、強化状態を引き継いだうえでより手強くなった敵たちが待ち受ける2周目に突入できるという、おなじみの周回要素もあり、遊びつくすには相当な時間が必要となるだろう。

戦闘の幅の狭さから、最初の5時間くらいからやっていることがほとんど変わらないという問題点がありながらの35時間であったが、どうにか最後まで飽きずにプレイできる程度の楽しさは確保されていたように思う。その大きな理由として、本作最大の魅力である「ボス戦の多彩さ」が挙げられる。まずボス敵の種類からして他作品とは比較にならないほど多く、マップを少し歩くごとに新たなボスと出会う。


探索要素の印象の薄さも相まって、ほぼ全編ボスラッシュモードと言っていいくらいにボスがそこら中に配置されている。

ただ数が多いだけでなく、ひとつひとつのボス戦が見た目のデザインから攻撃方法、BGMや登場ムービーなどの演出面まで含めて非常に高いクオリティを誇り、特定のアイテムを用いると専用の演出とともに大きな隙を晒す鼠人、まともにダメージを通すには最大限に棍勢を溜めた一撃で角を折る必要があるサイなど、ギミックも多彩であり、似たようなボス戦はひとつとして存在していない。見た目としては色違いと言えるボス敵も若干存在していたが、攻撃パターンが大きく異なっていることからまったく別のボスといって差し支えなく、このジャンルで問題になりがちな使い回しはほぼ見受けられない。

ストーリー上の大ボスに限らず、道中で何気なく出会う中ボス的な存在までもHPが一定量減少した際に行動パターンが大きく変化するなど、ほぼすべてのボス戦が印象深いものとなっている。ボス戦の満足感に限っては「DARK SOULS」シリーズや「仁王」シリーズなどに劣らないどころか、配置密度を踏まえるとそれらを上回ると言ってもよいかもしれない。驚くべき作りこみにただただ脱帽である。


『西遊記』や中国の神話などを基にしたと思われる敵デザインは一度見たら忘れられない強烈な印象を残す。


ボス敵だけでなく、ザコ敵についても丁寧に作り込まれており、最初から最後まで敵との邂逅の面で新鮮さが失われることはなかった。

ボス敵が異常なまでに多い代償というべきか、その難易度についてはまったく安定しておらず、多くのボス敵は初見あるいは数回のチャレンジで撃破できるものの、まれに数時間を要する強ボスが紛れ込んでいる。また、ギミックに凝りすぎてしまったのか、俗に「クソボス」などという不名誉な称号を与えられかねないボス敵もいくつか存在してしまっており、ひどいものになると「体力が一定以下になると強制的にプレイヤーのスタミナを半分にする」や「プレイヤーの回復アイテムを奪って自身の体力を回復する」という、とんでもないことをやってくれるボス敵たちまで存在している。以上のように苦難も多く、ただただ楽しいだけの戦いではないが、戦闘システム面の不備を補えるくらいには魅力にあふれた敵キャラたちが本作の持ち味である。


本作に難易度選択システムはないのだが、ストーリー上の大ボスはほぼ初見で撃破できたのに、そこらにいた中ボスには大苦戦するなど、難易度は安定しない。

『西遊記』を読み込んでいることが前提のストーリー

そのような素晴らしい敵たちと戦う理由となるストーリーについて論じたいのだが、正直なところ、筆者もよくわかっていない。おそらく、本作のストーリーは三蔵法師と孫悟空一行が天竺への旅を終えたその後の世界を舞台とし、口のきけない猿の妖魔を主人公に据えて孫悟空の足跡を辿るというテーマだと思うのだが、あまりにも説明不足で誰が何者で何をしているのかすら理解できないまま話が進んでしまった。

その要因としてまず思い浮かぶのが、本作のストーリーは『西遊記』の詳細を把握している人向けに作られている、という点である。たとえば「黒風大王」、「子母河」、「紅孩児」、「火焔山の地神」、「猪八戒の婿入り」などといった原作で登場したらしい用語や人物、イベントは当然知っているものとして話が進んでいってしまう。「牛魔王」、「羅刹女」などの聞き覚えのあるキャラクターも登場するのだが、『西遊記』といえば『ドラゴンボール』や『ドラえもん のび太のパラレル西遊記』などしか浮かばない筆者ではまったく話についていけなかった。もしかすると、中国では『西遊記』の読破は常識なのかもしれず、これもまた異文化を感じる部分ではあるが、世界に向けて発売するにはもう少しばかり説明が欲しかったところである。


「まさかあの虎先鋒と戦えるとは!!」となるプレイヤーならば評価はいくらか上がるかもしれない。

各キャラクターの扱いについてもかなりぞんざいで「結局、あのキャラはどうなったのか?」といった疑問が絶えない投げっぱなしな展開ばかりが目立つ。多くの場面でそこに至るまでの流れがまともに描写されず、その後の話も描写されず、ほとんどすべてが唐突に感じられてしまうという状況が続き、最後まで置いてけぼりであった。

そういった状況ではあるが、特に中盤以降は割とストーリー重視な内容となっており、5分程度の長尺カットシーンも頻繁に挿入されてしまうため、テンポも悪いという困った構成である。また、ある程度は仕方のない部分ではあるものの、別の中国産ゲームと似た問題を抱えており、我々に馴染みの薄い漢字であろうと普通に使用されることが多いうえ、ことあるごとに難解なことわざや漢詩が挟まれるセリフ回しもまたストーリーへの理解を阻む。


ムービーやイベントシーンについては、一時停止機能やバックログ機能などが存在しないため、漢詩などの難解なセリフが入るたびに頭の中で話が途切れてしまう。


音声は英語と中国語のみではあるが、キャラごとの口調の差にまで配慮が行き届いているなど、ローカライズの品質自体はよいものであるため、その点については安心してよいだろう。

しかしながら、ただただ困惑するだけの旅路であったかというとそういうわけでもない。再序盤のド派手な戦闘ムービーに始まり、巨大な龍との戦い、ボス敵との殺陣など、意味はわからずとも心が躍る場面は多くあり、展開の多彩さやカットシーンの画作りもいいセンスであるため、思わず息を吞む場面も多数存在している。とはいえ、ストーリー全体を把握しようとすると『西遊記』の原典を読み込むという高いハードルがあるため、基本的には映像集として楽しみながら、重要そうな会話を頭の片隅に留めておくのが本作のストーリーへの正しい向き合い方なのかも知れない。


最高クラスのグラフィックと独特なセンスが相まって、流れはわからなくとも映像として楽しめる場面は多い。


本作を総合してみると、センスが光る部分が多いだけにもったいないと思える部分が際立っているといった印象を受ける。アクションの多様性に力を入れていたら、キャラ強化要素がもっと充実していたら、『西遊記』を知らないプレイヤーにも親切なストーリーであったなら、と少し考えただけでも足りない部分がいくつも思い浮かんでしまう。

また、筆者のPCでは何の問題も発生しなかったが、公式FAQによると特定の環境下においてゲームがクラッシュするなどといった深刻な問題まで抱えていることもあり、少なくとも現時点では手放しでおすすめできる作品ではない。それと同時にボス敵との邂逅の瞬間など強烈な印象を残す作品でもあり、傑作になり得るポテンシャルを秘めていることは間違いなく、『黒神話:悟空』と開発のGame Scienceの今後の動向に注目したくなる一作であった。

長所

    質、量ともにほかに類を見ないほど作りこまれたボス戦
    圧倒的なグラフィックと独自のセンスが光るレベルデザイン
    少ない機会にすべてをかけるという戦闘のコンセプト


短所

    基本的に棍で殴るだけという戦闘スタイルのバリエーション不足
    突っかかるような操作感と拙いカメラワーク
    『西遊記』を読み込んでいることが前提となる難解なストーリー

総評


戦闘については目玉となるシステムがなく、戦闘手法のバリエーションにも乏しく、それでいて操作感もあまりよろしくない。しかしながら「隙をつくのではなく、隙を作り出す」、「少ない機会にすべてをかける」という戦闘のコンセプトはよいものであり、量と質を両立したボス敵たちのおかげもあって、システム面の不足をギリギリ補えるくらいには魅力ある戦闘となっている。反面、キャラ強化と探索についてはあまりにも薄味であり、『西遊記』未読者には理解が困難なストーリーなどの隠しようのない欠点も存在している。しかし、一瞬一瞬が絵になるほどの圧倒的なグラフィックと独特なデザインセンスによって描き出される『西遊記』のその後の世界には、一見の価値があるだろう。